美術館でバイトをしていた時。

美術館でバイトをしていた。その日の仕事は地元の公募展の受け付け作業。
いっしょに一人、審査員の先生も同席してくれる。
その時にいてくれたのは、やさしいおじいちゃん、と言う感じの彫刻の先生。
一緒に並んで座っている私が咳をしていると「手を出しなさい」と言う。
不思議そうに手を出すと、服のポケットから出した缶入りの南天のど飴の小さな缶を振って、
私の手のひらに飴を落として「たべなさい」と優しく笑った。
私は風邪気味でその日は何度も咳をし、そのたびに手を出しなさいと言われた。
「大事にしなさい、人間は簡単に死ぬからね」とぽつんと言われ、
「やだー、先生、そんなに簡単に死にませんよー」と笑っていったら
「そうだなぁ、そうだなぁ」と優しく笑った。
半年後、新聞の死亡記事でその先生を見つけた。
その数日後に美術館でバイトをした時その先生の話になった。
癌だった先生は、告知を受けており、私が飴を貰った頃はすでに自分の死期が近い事を知っていたという事だった。
その半年後、某美術展の地方巡回展があり、私は売店のバイトをする事になった。
開会日の前日、会場の売店の整理の合間に作品を見てきてもいいと責任者にいわれて会場を回った。
とても優しく笑っている女の子の彫刻に喪章がついていた。
審査員出品作。
その先生の最後の作品だった。
優しい笑顔がふいに浮かんで、トイレにかけこんで泣いた。