今はとある自動車博物館へと展示されている

102 名前: 大人になった名無しさん Mail: 投稿日: 04/07/12 20:36
子供の頃、物置兼車庫の奥に一台の古びた乗用車がおいてあった
ダットサン17型フェートン 祖父ちゃんが海軍少佐任官記念に購入したものだ
自動車なんか高嶺の花の時代 当時の少佐の俸給でも非常に高価な代物だった

祖父ちゃんはスマートな海軍を地で行くようなお洒落な人物だったと聞く
手元に一枚の写真がある
念願の自動車の前で、祖父ちゃんと祖母ちゃん 子供の頃の親父が写っている
濃紺の軍服をパリッと着込み、咥え煙草で微笑んでいるのが祖父ちゃんだ

その祖父ちゃんは昭和19年、フィリピンのスリガオ海峡で戦艦扶桑と共に戦死した
戦艦扶桑は火薬庫引火で大爆発を起こし、艦長以下生存者は全くいなかったそうだ
無論、遺骨などは無く 愛用のカメラや家伝の刀も海の藻屑
残されたのは代えの軍服と短剣 そして例の自動車ぐらいのものだった

戦後、残された自動車は親父の運転で奮闘する
近くの航空基地からドラム缶数本ごと運んできたガソリンを使い
闇市の買出し 親父の仕事 そして家族旅行
本当に家族の足となり長らく走り回った

103 名前: 大人になった名無しさん Mail: 投稿日: 04/07/12 20:37
時は流れ、家族の足の役目は新しく購入したブルーバードに取って代わり
役目を終えたダットサンは、車庫で休眠に入った

俺が小さい頃は既に休眠状態だったが、たまに祖母ちゃんが車庫の外に引き出して手入れを行っていた
俺もよく手伝わされた
働き通しに働いた、傷だらけの車を入念にクロスで磨き上げ エンジンをかけ
そしてその後、祖父ちゃんの思い出を懐かしそうに俺に語るのが常だった
将来俺にこの車を譲るよ、とも言っていた
その時の祖母ちゃんの顔は本当に嬉しそうに見えた

しばらくして祖母ちゃんが亡くなり、車はある好事家へと売られていった
俺は泣き叫んで嫌がったが、結果的にはよかったのだろう
その後その人からも離れ、今はとある自動車博物館へと展示されている

綺麗に手入れされたその車を見に行くたびに、祖母ちゃんの、そして写真の祖父ちゃんの面影が浮かぶ


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