ファン

85年、阪神21年ぶりの優勝直後、とある熱狂的な阪神ファンがこの世を去った。
そのファンは「ゆうさん」という愛称で親しまれ、不治の病に冒されてからも
阪神ファン仲間とともにテレビで阪神の応援を欠かさなかった。

そんなゆうさんのお気に入りの選手は、2年目で正捕手の座をつかんだ木戸。
人づてにゆうさんの話を聞いた木戸は、シーズン中にも関わらずひっそりと
病室を訪ね、バットやサイン色紙などをプレゼントし、ゆうさんを励ました。

阪神の快進撃とは反比例するように、ゆうさんの病状は悪化の一途を辿る。
それでも、夢に見た阪神の優勝を見るまでは…と、泣き笑いの毎日が続いた。

優勝が近づいたころ、ゆうさんはすでに余命いくばくもなく、自宅で最期の日々を
過ごしていた。夢にまで見た縦じまの優勝をこの目で見るまではと、必死に
歯を食いしばってその日その日を生き続けた。

そして優勝の瞬間、もはや起き上がることもできないゆうさんは、ベッドの上で
声にならない声をあげ、涙を流して喜んだ。

そしてそれから程なくして、ゆうさんは天国へと旅立った。

優勝の歓喜と熱狂の最中、木戸が知人にこうつぶやいたという。

「優勝はもっと先でもよかった。そうすれば、ゆうさんが1日でも長生き
 してくれるだろうから…」