バイク

生まれてから今までで、他人のバイクを借りたのは一度だけ。

あの、阪神淡路大震災の日、芦屋に住む兄の安否を確かめに行く時、親友にほぼ新車のXL200Rを借りた。
でも「貸してくれ」と頼んだわけじゃない。
あの日の朝、俺はそいつに電話をかけたんだ。
「急でスマンが、お前のXL、売ってくれ」
「一体どうしたんだ」
「これから芦屋に行く。俺のバイクじゃたどりつけるかどうかわからん。お前のを使わせてくれ。買い取るから」
「わかった、XLはタダでお前に呉れてやる。後でいらなくなったら引き取ってやる。もってけ」

XLは芦屋・大阪を2往復し転倒1回、タンクに窪みができた。俺は友人宅にそのバイクを乗って行き、新車購入価格で
買い取ると伝えた。
そいつが言うには「それはお前に呉れてやったんだ。銭など要らぬ。でも、もう使わないから邪魔だというのなら
そこに置いて行け。俺が拾って使うから」

俺はあえて礼を言わず、XLを置いて帰った。