ズラ

小学校低学年の頃父親の秘密を知った。
父親とじゃれ合って遊んでいると、父親の髪の毛がスルッと床に落ちた。
父親はズラだった・・・
「お、お父さん・・カツラ?!」
その日の夕食の時、まだあどけない俺は母や兄に父親がカツラである事実を
得意げに話した。父親は無言だった。
後で母親に呼ばれ「お父さんがカツラだってことは絶対言っちゃいけないよ。
お父さんすごく気にしてるんだからね。」と強い口調で言われ、
子供ながらに決して口にしてはいけない事だと悟った。
あれから20数年。俺は一度たりとも父親の頭に触れたことはない。
肩車をされても頭だけには触らないように、なんとかバランスをとって
健気に踏ん張った幼少期。
父親とケンカをして「このズラ親父がぁぁーー!!」と叫びたいのを
必死にこらえた反抗期。
洗面所に父親が入ると毛生え薬ぬったりズラをかぶり直してるの知ってるから、
どんなに髪をセットしたくても気長に待ってた思春期。
こんなに父親の秘密を守りぬいてきたのに、最近髪が後退してきた兄が
「親父みたいになってきたよぅ。今の時代はやっぱ植毛だな。」
と父親の前で平気で言うようになった。母親までも「お父さんの遺伝やね。」
俺だけは絶対にそんな事一生言わないぜ!知らない振り通してやるぜ!
今でも頑張ってズラかぶってんだもんな。なっ、親父!